【レビュー】 「積極ー愛のうたー」 谷川史子

積極―愛のうた― (クイーンズコミックス)

積極―愛のうた― (クイーンズコミックス)

私がふわふわとした茶髪にあこがれるのは、流行っているからでも、森ガールになりたいからでも、外国かぶれだからでもない。
谷川史子の漫画に出てくる女の子みたいになりたいからだ。
さわったらやわらかそうな、無造作なそんな髪になりたいと、りぼんを読み始めた小学校3年生のころからぼやんと、そんなことをずっと思っている。
試す勇気がないのが残念だけれど。


そんな私が小学生のころから信奉する谷川史子先生の漫画の中でもベスト3にはいるくらい、好きなコミックスがこれ。
表題作の積極に出会ったときはもうたまんなかった。
立ち読み中のコンビニにもかかわらず号泣し、とまらないしゃっくりを店員にどん引きされながらコーラスを買って家に帰ったし、コミックスが出ると聞いた時には、このあたりで一番早く開く本屋に走った。
何度も読み返して、そのたびに涙腺がきゅっとゆるむのがわかる。
そして、そのせいでなんかもうぼろっちくなっている。


初めて読んだ時、積極というこの漫画の核となる短歌、「青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり」のあまりの美しさに悶絶した。
同時に、31文字でこんなにも鮮明にも自分の情感や思いを伝えられるということに驚愕した。
積極性でも積極的でもなく、積極。はっきりとした言い切り。
その唯一の積極が青林檎を与えること。(島崎藤村の初恋が頭をよぎる)
そしてその別れの潔さと、美しさ。
もうカルチャーショックもいいところだった。電撃が走ったみたいだった。


それからはもう、河野裕子先生の詩集を読みあさり、短歌にかぶれた。
(一時期SNSで短歌コミュニティを作っていたのは、この漫画のせいもあったのです。)
そのくらい、好きで好きでしょうがなかった。
漫画の中に出てくる教授が教科書代わりに使っていたということになっている、彼自身のお気に入りの歌や詩ばかりを集めた「とりのうた」という本にあこがれて、好きな歌をいくつもお気に入りのノートに書き込んで私だけの「とりのうた」を作ったりもした。お金がなかったから、無印良品のノートだけれど。
影響されやすい、ロマンチックバカな私、万歳。
そのぐらい、この漫画は私にとって大きなものになっている。



この漫画に出てくる短歌を詠んだ河野裕子さんは、2010年8月にお亡くなりになった。まだ、64歳だった。
NHKの短歌番組で拝見したお姿はとても上品で、ああこの人があの歌を作って恋を歌ったのか、と思うとなんだかどきどきしたものだった。
せめて、絶版になった歌集がこれを機に復刊になることを願っている。


この漫画を読んでから、多くの歌を諳んじることができるように出来るようになった。
そのことは私の大きな財産だと思うわけです。